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1.はじめに

 近年、環境問題に対する意識の高まりを背景に、様々な機械の低騒音化が求められています。代表的な騒音対策には以下が挙げられます。

①騒音を越境させない:防音壁の技術
②騒音を拡散させない:エンクロージャの技術
③排気騒音を低減する:消音器の技術
④振動を低減する:防振材や制振材の技術

「①騒音を越境させない:防音壁の技術」については、Webマガジン60号にて、騒音の評価技術および対策技術、並びに適用事例を紹介しました。今回のテーマは「②騒音を拡散させない:エンクロージャの技術」についてです。エンクロージャは、ガスタービン、圧縮機、プラントなど地上設備の騒音対策によく使われる方法です。当社が有する低騒音化検討に必要な遮音および吸音の技術を中心に、検討事例とともに紹介します。

2.遮音および吸音のメカニズム、並びにエンクロージャについて

 まずは、エンクロージャによる低騒音化検討に必要な遮音と吸音のメカニズムについて説明します(図1)。遮音とは、鋼板などの通気性の無い板材料で音を反射させて遮り、拡散する騒音を低減します。重量が重要な指標となり、遮音性能を高めるには重い材料を用います。
 次に、吸音とは、グラスウールなどの通気性のある材料を音の反射面に設置して、音が吸音材内を伝播するときにエネルギ散逸し、騒音が低減します。吸音性能を高めるには、施工面積と吸音特性(吸音率)を大きくします。

図1 遮音および吸音のメカニズム
図1 遮音および吸音のメカニズム

 このように、エンクロージャは遮音材料(鋼板やコンクリートなど)を用いて騒音源を囲い、騒音の拡散を防ぐとともに、吸音材料によってエンクロージャ内部の反響音を低減させます(図2)。通常、換気や熱対策のために通気用の開口部を設置しますが、遮音性能と通気性がトレードオフの関係となるため、適正な開口面積を検討する必要があります。以上より、低騒音化に関わる検討項目は、遮音材料の遮音性能、吸音材料の吸音性能、開口部の寸法(面積、位置、など)です。ただし、本検討手法は設計初期段階における概略検討であるため、開口部については面積のみを扱います。

図2 エンクロージャの構造および検討項目
図2 エンクロージャの構造および検討項目

 低騒音化の検討手順を図3に示します。まず始めに騒音源の音響特性(騒音の大きさ、周波数特性など)を計測により取得します(音響特性の取得については、Webマガジン60号をご覧ください)。次に、計測した音響特性と騒音許容値(例えば、機側1m位置における騒音レベルの仕様値)から騒音低減目標値を設定します。エンクロージャを検討するにあたっては、まず、囲う材料の遮音性能および吸音性能を取得します(詳細は第3章で説明)。取得した材料情報を用いて、設定した騒音低減目標値を満たす材料およびエンクロージャを検討します(詳細は第4章で説明)。最後に、完成後、騒音低減効果を確認します。

図3 エンクロージャの構造および検討項目
図3 低騒音化の検討手順
3.遮音性能および吸音性能の取得

 騒音低減効果の検討にあたり、材料の遮音性能および吸音性能が必要です。これらを得る手段として、以下(A)~(C)が考えられます。

(A)カタログ・便覧・簡易計算
(B)試験(要素、実機)【3.1節、3.2節】
(C)解析(有限要素法、四端子法など)

 まず、使用する材料そのもののカタログ値、もしくは便覧値があればそれを使用します(A)。これらが無い場合、構造が単純な遮音材料は、図4中の式を用いて面密度m(密度×板厚)より遮音性能(音響透過損失)を簡易計算できます。

図4 遮音性能の簡易計算
図4 遮音性能の簡易計算

 構造が複雑な材料や新規に開発した材料の場合は、試験でデータを取得(B)することができ、その場合は要素、もしくは類似のエンクロージャがあれば実機で試験を行えます。遮音性能の取得については3.1節、吸音性能の取得については3.2節でそれぞれ紹介します。試験が難しい場合は、有限要素法や四端子法などの解析を活用する方法(C)がありますが、今回は紙面の都合で割愛します。ご興味がありましたら、ノウハウを有している当社にご連絡をください。

3.1 遮音性能の取得

 試験によって遮音性能を取得する場合、対象が要素か実機かでデータ取得方法は異なりますが、いずれの場合でも、スピーカのある音源側の部屋の騒音Aと音響透過側の騒音Bの差から遮音性能を算出します(図5)。
 要素での計測について、当該データを取得する方法の一つとして、残響室(音の響く部屋)と無響室(音の響かない部屋)を利用した手法があります。残響室と無響室の間の壁面に供試体を設置し、残響室側に設置したスピーカで発生させた騒音が無響室側へ透過する音を取得します。実機の計測では、エンクロージャ内にスピーカを設置して騒音を発生させ、外部への透過音を計測して遮音性能を取得します。

図5 試験による遮音性能の取得
図5 試験による遮音性能の取得

3.2 吸音性能の取得

 吸音性能を取得する方法も、要素および実機での取得方法があります(図6)。要素での計測は、音響管(B&K製[1])を用いてデータを取得します。測定周波数によって、試験片を2種類(φ100mm:周波数範囲50Hz~1600Hz、φ29mm:周波数範囲500Hz~6400Hz)準備します。音響管のスピーカから音を発信し、マイクロホンで試験片からの反射音を捉え、吸音性能を算出します。当該計測はJIS規格(JIS A 1405)に準拠した手法であり、適切に試験片を設置しないと計測精度が低下しますが、当社では計測ノウハウを有しており、適切な計測が可能です。
 実機の計測では、エンクロージャ内にスピーカを設置し、スピーカをOFFとしたときの騒音レベルの時刻歴変化より、吸音性能を取得します。

図6 試験による吸音性能の取得
図6 試験による吸音性能の取得
4.エンクロージャの検討事例

 本章では、検討対象とした騒音源に対し、10dB騒音低減を目標値(騒音規制値より設定)として、エンクロージャを検討した事例を示します。4.1節に問題設定、4.2節に初期検討、4.3節に改良検討の結果をそれぞれ示します。

4.1 問題設定

 騒音源の音響特性は、OA値(オーバーオール値、全周波数域のパワー和)で95dB(A)、図7右図に示すような周波数特性としました。エンクロージャの外形寸法は設置条件に制約があり、変更不可としました。今回、検討に使用した検討項目は、表1に示す遮音材料の遮音性能、吸音材料の吸音性能、開口部の遮音性能です。これらを変更して、10dB騒音低減できるパラメータを検討しました。

表1 検討項目
検討項目 パラメータ 初期値
遮音材料の性能 鋼板の板厚 2mm
吸音材料の性能 グラスウールの厚み 50mm
開口部の遮音性能 開口面積 15%
図7 問題設定
図7 問題設定

4.2 初期検討

 表1および図7に示した初期値での騒音低減効果を図8右図に示します。図8左図は、騒音源からエンクロージャ外までの騒音伝播経路を示し、PWLは騒音エネルギ、SPLは騒音レベル(騒音計で計測される値)をそれぞれ示します。
 まず、騒音源からエンクロージャ外部への騒音伝播を説明しますと、騒音源から放射された音はエンクロージャ内を空気伝播するとともに壁で反射することで、ある程度一様な騒音分布となります。当該騒音レベルは、騒音源の音響特性と内部の吸音性能(平均吸音率×表面積)を用いて、図7中の式から計算できます。次に、当該騒音が壁面(遮音材料+吸音材料)および開口部それぞれから外部へ伝播する騒音エネルギを、面積と遮音性能を用いて計算します。各部の騒音エネルギはそれぞれ67dB(A)、88dB(A)となり、開口部からの騒音が大きく、支配的な伝播経路となること分かりました。
 開口部と壁面透過の影響を合計すると、騒音レベルは88dB(A)となり、騒音低減効果は7dBでした。目標値10dBに達しなかったので、改良が必要です。

図8 騒音伝播経路および初期値の騒音低減効果
図8 騒音伝播経路および初期値の騒音低減効果

4.3 改良検討

 騒音低減目標を達成するため、あと3dBの性能改良を検討しました。具体的には、以下に示す2つの方針です。a.とb.それぞれについて、騒音低減量の計算結果とともに説明します(図9)。

a. 開口部の音漏れ対策
b. 内部の騒音低減

 まず、a. 開口部の音漏れ対策として、開口面積を縮小しました。通気性とのトレードオフの関係を考慮して、開口率15%から8%に変更し2dB騒音が低減しました。次に、b.内部の騒音レベル低減のため、吸音材を厚くしました。騒音源の音響特性や外形寸法(表面積)は変更できないので、吸音材の厚みしか変更箇所がありません。吸音材の厚みを50mmから100mmに変更することで、1dB騒音が低減しました。
 以上、エンクロージャ設置とこれら2つの改良を組み合わせて、騒音10dB低減の見込みが得られました。今回はこれらの方法で目標達成できましたが、さらに騒音低減させる方法として、開口部に消音ダクトを設置する案もあります。このように、当社ではエンクロージャによる低騒音化検討が可能です。また、Webマガジン60号で紹介したSoundPLANnoise[2]を利用すると、エンクロージャによる低騒音化とともに、周囲への騒音伝播を同時に検討することができます。

図9 エンクロージャの設置・改良による騒音低減効果
図9 エンクロージャの設置・改良による騒音低減効果
5.おわりに

 今回は、エンクロージャによる低騒音化検討を事例として、遮音および吸音に関する技術を中心に紹介しました。当社は、一連の検討に必要な評価技術および計測技術を有しております。お客様の目的に応じた騒音評価と最適な騒音対策の提案に向けて、ソリューションでお応えいたしますので、下記まで気楽にお問い合わせ下さい。
 次回の騒音技術紹介においては、消音器について紹介する予定です。

(2024/1)
製品評価ソリューション部 振動技術課
高橋 忠裕
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