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1.はじめに

 近年、環境問題に対する意識の高まりを背景に、様々な機械の低騒音化が求められています。また、製品の効率向上、軽量化、低コスト化に対しても要求が厳しく、これらの性能は総じて低騒音化とトレードオフ関係になります。両者を成立させるには、騒音の特徴を適切に把握して有効な対策を講じることが重要です。
 世の中には様々な騒音問題、例えば、自動車や航空機など乗り物に関する交通騒音、工事現場や工場で発生する工場騒音、などがあります。代表的な騒音対策には以下が挙げられます。

①騒音を越境させない:防音壁の設置
②騒音を拡散させない:エンクロージャの設置
③排気騒音を低減する:消音器の設置
④振動を低減する:防振材や制振材の設置

これらの騒音対策・関連技術は多岐にわたりますので、今後のWEBマガジンでシリーズとして公開していきます。今回は、①防音壁の設置およびその関連技術について、工場の敷地境界騒音を評価対象とした場合を例に挙げ、当社が有する騒音源の特性の計測技術とシミュレーション技術を合わせた評価技術について紹介します。

2.工場の敷地境界騒音とは

 工場の敷地境界騒音とは、工場内に設置された発電機や送風機などの機械から発生した騒音が、空気を介して敷地境界まで伝播する騒音(図1)です。当該騒音は、騒音苦情の約3割(図2)を占めており、深刻な問題となる可能性が高いです。法令でも規制値以下とするよう定められており、この値を超えていれば、機械設置者は対策を行う必要があります。

図1 工場の敷地境界騒音
図1 工場の敷地境界騒音
図2 騒音苦情の発生源
図2 騒音苦情の発生源[1]
3.敷地境界騒音の評価技術および対策技術

 本章では、敷地境界騒音の騒音対策フローを示す(3.1)とともに、当該技術の基盤となる騒音源の特性の評価方法(3.2)、および空気中の騒音伝播のシミュレーション技術(3.3)、並びに騒音対策技術(3.4)について紹介します。

3.1 騒音対策フロー

 敷地境界騒音の対策フローを図3に示します。まず始めに、騒音源および工場敷地境界の騒音を計測し、騒音源の特性を評価します。この計測によって騒音源を評価する工程が、騒音評価精度において最も重要となります。次に、騒音源からの騒音伝播をシミュレートし、距離が遠くなると騒音が小さくなる特性や防音壁の騒音低減効果を考慮して、敷地境界騒音を予測します。予測結果に基づいて騒音対策を立案し、シミュレーションと計測で騒音低減効果を確認します。

図3 騒音対策フロー
図3 騒音対策フロー

3.2 騒音源の評価方法

 騒音計測による騒音源の特性の評価について図4で説明します。本手法ではJIS規格(JIS Z 8733)に基づき、騒音源のサイズにより計測位置を変えます。サイズが小さいときは半球面上、サイズが大きいときは直方体の平面上で騒音を計測するとともに、平均化などのデータ処理と面積の積算を施し、騒音源の音の大きさ、周波数特性、騒音の分布(音の指向性)などを算出します。

図4 騒音源の特性の評価
図4 騒音源の特性の評価

3.3 騒音伝播シミュレーション

 次に、シミュレーションによる騒音伝播の予測について、図5を用いて説明します。モデル化の流れについて、Step-1では3.2にて評価した騒音源の特性と音源位置の座標、Step-2では、騒音評価点の座標をそれぞれ設定します。防音壁がある場合、Step-3で壁の高さや位置の座標も設定します。そうすると、図6に示すような騒音源からの音の分布をシミュレートすることができます。なお、当社では、ここまで説明してきた騒音源の計測技術と汎用ソフトSoundPLANnoise[2]を用いたシミュレーション技術を合わせた騒音評価技術を有しております。

図5 騒音伝播のモデル化
図5 騒音伝播のモデル化
図6 騒音伝播シミュレーション
図6 騒音伝播シミュレーション

3.4 騒音対策技術

 代表的な敷地境界騒音の対策案(A~D)を図7に示します。大きく分類して、騒音源は変更せずに防音壁などを追加で対策する方法と、騒音源自身を対策する方法の2種類があります。
 まず、追加で対策する方法について、騒音を遮蔽する防音壁の設置(A)、もしくは騒音源を囲って遮音するエンクロージャの設置(B)があります。両者ともに有効な対策手法となりますが、(B)についてはデメリットとしてエンクロージャ内の熱こもりが課題となります。なお、エンクロージャの検討を含む、音の遮音と吸音については次回の騒音技術紹介にて説明する予定です。
 次に、騒音源自身を対策する方法として、騒音源となる機器の配置を変更する方法(C)があり、騒音評価箇所から騒音源を遠方へ移動させることで、騒音が低減します。あるいは、騒音源の向きを変える(D)ことで騒音が低減する場合があります。例えば、大きな排気ダクトから騒音が出ている場合、開口部の向きを変更することが有効となります。

図7 敷地境界騒音の対策案
図7 敷地境界騒音の対策案
4.評価技術の適用事例

 本章では、敷地境界騒音の適用事例として、騒音源の特性評価(4.1)、防音壁の諸元検討(4.2)、機器配置の検討(4.3)についてそれぞれ紹介します。

4.1 騒音源の特性評価

 騒音源の特性を評価した例を図8に示します。本ケースでは、騒音源を点音源とし、その周囲を半径1mの半球面上に10か所(JIS Z 8733により、計測位置は規定)の騒音を計測し、騒音源の特性を評価しました。本計測によって、右図に示すように、騒音源の音の大きさの周波数特性が得られ、このデータを用いることで精度の良いシミュレーションが可能となります。本データは、機器のカタログなどに記載されていないことが多く、このように新たに計測する必要があります。

図8 騒音源の特性評価
図8 騒音源の特性評価

4.2 防音壁の諸元検討

 3.4節で説明したように、防音壁は敷地境界騒音の対策方法として有効な手段です。防音壁の諸元を決めるにあたり、騒音伝播シミュレーションを用いて、騒音低減量に大きく影響する防音壁の高さと設置位置を検討します。防音壁の騒音低減効果をシミュレーションした例を図9に示します。騒音源から放射上に騒音が伝播しておりますが、防音壁がある場合、壁の裏側の騒音が低減しており、防音壁の有効性が確認できます。

図9 防音壁の騒音低減効果
図9 防音壁の騒音低減効果

4.3 機器配置の検討

 工場敷地境界付近に敷設したガスタービン発電所において、機器配置と防音壁の諸元を検討した事例を図10に示します。本ケースでは、各機器の騒音特性を計測で取得し、シミュレーションを用いて騒音を予測しました。その結果、冷却塔の騒音が最も大きいことが判明したので、冷却塔と防音壁の距離を近づけて、より防音壁の効果が高まる配置で敷設工事を行いました。完成後に騒音を計測した結果、敷地境界騒音は規制値を超えることなく、発電所の運転が可能となりました。

図10 検討後の機器配置
図10 検討後の機器配置
5.おわりに

 今回は、工場の敷地境界騒音を評価対象として、防音壁およびその関連技術について紹介しました。当社では、騒音評価において最も重要である騒音源の特性の計測技術とシミュレーション技術を合わせた評価技術を有しております。お客様の目的に応じた騒音評価と最適な騒音対策の提案に向けて、ソリューションでお応えいたしますので、下記まで気楽にお問い合わせ下さい。
 次回の騒音技術紹介においては、エンクロージャの検討を含む、音の遮音と吸音について紹介する予定です。

(2023/8)
製品評価ソリューション部 振動技術課 
高橋 忠裕
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