「機械の健康状態を把握するには、何を調べるのがベスト?できるだけお金はかけたくないんだけど・・・」そんな現場の声をよく耳にします。市場には、機械の状態監視を行う技術として振動や温度、音響の測定などがありますが、当社では油の状態監視に力を注いでおり、そのためのツールとして新たにICP発光分光分析装置を導入し、油中の摩耗金属元素分析を迅速に行うことができるようになりました。この装置を利用した「SOAP法」をご紹介致します。
SOAPとはSpectrometric Oil Analysis Programの略で、機械の保全の計画に役立てる情報を得るためのオイル分析の一つです。保全には一定期間ごとに行うTBM(Time Based of Maintenance)と、機械の状態を把握して行うCBM(Condition Based of Maintenance)があり、SOAP法は、CBMに役立つ情報を収集するために活用される、いくつかの方法の内の一つです。
SOAP法には、多種の金属元素を同時に短時間で分析できる発光分光分析装置(図1)を使用します。エンジン油、軸受け用潤滑油、油圧作動油などあらゆる潤滑油を、定期的に採取してその中の金属元素を分析することにより、機械の状態監視を行います。
機械が正常状態で運転されているときには、磨耗粉の粒子径は小さく(一般に5μm以下)、量も一定のごく低い値を示しますが、異常状態が始まると摩耗粉量が増加するに伴い、各元素の計測値が変化します。機械のそれぞれの部品で使用される材料に特徴的な組合せで元素が検出されるため、多元素を同時計測することで表1のように発生源を推測し、摩耗部位の状態を予測することも可能です。また、添加剤元素の消耗率を計算することで、異常摩耗の発生を予測することも可能です。
図2のグラフでは摩耗粉は使用初期には、低いレベルで保たれていたものが、ある時期に急な上昇をしたため新油を追加し、継続運転をしましたが、その後、やや高めのレベルで推移したため油の交換をしました。一方添加剤は使用初期から油の追加まで低下し続けています。これは、添加剤が金属表面と反応して被膜を形成し、金属同士の接触を防止する役目を果たしていることを示しています。この後、添加剤が消耗した状態で運転を継続したため摩耗粉濃度の上昇が確認されています。新油を追加し使用し続けると異常摩耗には進展しませんでしたが、摩耗粉濃度が高止まりしたため、油の交換を行いました。
この結果から添加剤が消耗した状態で運転を継続すれば破壊的故障に至ることが考えられ、添加剤を補充してやれば延命は可能であるが、油の交換ほどの効果がないことがわかりました。
以上のように、摩耗粉元素と添加剤元素の変化に注目すれば、ほぼ真逆の動きをしていることがわかり、添加剤の消耗があるレベルを超えると摩耗が進行しやすくなり、いずれは異常摩耗に至ることが予測されるため、故障を未然に防ぐためのデータとすることが可能です。
このようにSOAP法は、定期的に摩耗金属と添加剤元素の計測を行うことで、より正確な故障予知に結びつく情報を収集することができます。また、フェログラフィ分析(*)と組合せることで異常摩耗の有無を監視でき、より理想的な管理を行うこともできます。
(*)参照リンク
SOAP法など、定期的な計測を必要とする状態監視に関する項目は、一般的な性状分析項目(動粘度や全酸価、水分、異物量など)を含め、当社で対応できるようにしております。特にSOAP法については分析装置を油専用機としてスタンバイし、ご使用中の機械装置のベストコンディションを保つお手伝いをさせていただく体制を整えております。SOAP法のみであれば最低必要量10mLと僅かな量で計測することができますが、SOAP法に加えてフェログラフィ分析もお勧めしておりますので、お気軽にご相談ください。
当社では、様々なシーンで活躍する機械装置の潤滑油を分析してきた実績があります。産業用ロボットや舶用推進器、ガスタービン、陸・舶用ディーゼルエンジン等で蓄積されてきた知識を最大限に活かして、お客様のメンテナンスのお手伝いをさせていただきます。