川重テクノロジー 道場社長: 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。
本日は、株式会社アーステクニカの浜口正記社長にお話を伺います。 昨年は設立15周年を迎えられ、今年は、八千代工場開設50周年を迎えられますね。
アーステクニカ 浜口社長: ありがとうございます。当社は2003年に、神戸製鋼所と川崎重工業の破砕機部門を統合して誕生しました。2008年には、高砂にあった事業所を集約しましたので、現在は全ての製品を八千代で製造しています。
八千代市に工場を開設したのは1969年です。完成当初は、まだ周辺に工場や住宅は少なかったそうですが、今ではすっかり様変わりしています。 工場内にそびえ立つヒマラヤ杉は、開設当時から植わっているものだと聞いています。 道場社長: 浜口さんは、神戸製鋼のご出身だそうですね。
浜口社長: そうです。1980年に入社しました。
当時は、戦後の混乱期に締結した海外メーカーとの技術提携契約を見直し、独自技術で世界と戦う方向にシフトしつつありました。技術の海外依存比率が下がってきた時期でしたね。 破砕機部門でも、1983年に、約30年間技術供与を受けていた業界大手のAllis Chalmers社(アメリカ)との契約を解消しました。技術・製造部門も営業部門も、新たな目標に向かって突き進んでいた時代でした。 そのような中で、自社開発メニューとして1984年のOKローラミルや、1992年のアストロシリーズの上市などにつながりました。ロングセラー製品として、現在の製品ラインナップにも含まれています。 道場社長: 特に思い出に残っている出来事は何ですか?
浜口社長: 1992〜1993年に、OKローラミルの技術供与契約の交渉に携わりました。相手は、世界最大のセメント機器メーカーのF.L.Smidth社(デンマーク)です。
当時、セメント仕上粉砕では省エネが大きな課題となっており、それを達成可能な竪型ミルにおいて、硬質原料であるセメントクリンカ粉砕時に起こる振動問題、粉砕セグメントの耐摩耗性の問題、製品品質の問題をクリアするため、神戸製鋼所と小野田セメント(現太平洋セメント)、小野田エンジニアリング(現太平洋エンジニアリング)とで共同開発した粉砕機がOKローラミルです。 この契約が実を結び、その後も、同社とは大型機を共同開発する等、パートナーとして25年間良好な関係を維持しています。 交渉を通じて、海外企業との付き合い方、議論の戦わせ方などを体験できたのは大きかったですね。その後のビジネスで生かされています。 道場社長: その後、川崎重工との事業統合で、御社が誕生したわけですね。ところで、御社は破砕機のメーカーですが、破砕機とはどのような装置か、詳しくお聞かせください。
浜口社長: 「破砕機」とは、その名の通り、「物を砕く機械」ですが、その砕き方は様々です。叩いて砕くものや、噛み砕くように圧迫するもの、回転させながら圧縮していくもの、刃物で砕いていくものなどがあります。何を砕くのか、それをどんな形、大きさに砕いていくのか等が破砕機を選ぶポイントになっています。
当社は、砕く技術のスペシャリスト集団として、お客様の用途に最適な破砕機の組み合わせをご提案しております。 道場社長: どのようなお客様が、御社の破砕機を導入されているのですか?
浜口社長: 骨材を製造されるお客様に多く使っていただいています。当社は、骨材製造用破砕機のシェアで国内トップクラスです。
骨材とは、コンクリートやアスファルトを作るために、原料に混ぜて使う砂利や砂のことです。昔は、川や海から砂を採取していましたが、今では環境保護の観点から規制されています。採石場から切り出された岩石を、いかに天然の砂のように、均質かつ小さな粒径に近づけていくかが破砕技術のポイントです。 皆様がよくご存知のインフラ設備などでも、当社製品で作られた骨材が使われているかもしれません。 道場社長: そう考えますと、御社は私たちの生活にとって、とても身近な存在と言えますね。また、御社は海外展開も積極的に取り組まれていますね。
浜口社長: オーストラリアや南アフリカ、南米などで、鉄鉱石や銅鉱石、ダイヤモンド鉱石を砕くための破砕機として、多数の納入実績がございます。
また、先ほどのOKローラミル以外にも、欧州の世界的企業に、当社の破砕機技術をライセンス契約で導入いただいているところもあります。 最近は、東南アジアなど新興国に向けた販売も強化しているところです。東南アジアでは、国によりますが、社会インフラ整備が急ピッチで進められています。販売機会を取り込むため、昨年は、タイにサービス拠点を設置しました。積極的な営業活動はもちろんですが、当社製品を安心してご利用いただけるよう、異常発生時はサービス拠点から迅速に対応できるよう体制を強化していきます。 道場社長: 最近は、化学や医療、食品分野でも、御社の活躍の場が広がっているそうですね。
浜口社長: 化学や医薬の分野などで、当社の微粉砕機や分級機などを採用いただくケースが増えています。より粒径が小さく、かつ、高い球形化の精度が求められるので、当社が長年培ってきた技術が活かせる分野でもあるんです。
特にジェネリック医薬品は、1兆円程度の市場規模があり、ビジネスチャンスと捉えています。 当社では、錠剤や顆粒剤、カプセル剤など、固形製剤の製造プロセスである篩過(しか)、混合、造粒、整粒、乾燥に必要な装置を全て取り揃えています。 2012年には、塩野義製薬さんから装置の製造・販売や、修理などのアフターサービス事業を引き継ぎました。将来を担う事業として、積極的な投資を考えています。 道場社長: 御社の社名には、地球(アース)の文字が含まれていますね。地球環境問題に積極的に取り組んでいく決意が、社名に込められているように思います。御社では、環境ビジネスにどのように取り組まれていますか?
浜口社長: 実は、当社ロゴマークの中央にある球体は「地球」なんです。「砕く技術」で、資源開発とリサイクルによる地球環境保護に取り組むという思いが込められています。
また、川崎重工グループのグループミッションは『世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する”Global Kawasaki”』ですね。地球(アース)という文字を会社名に掲げている当社にとっては、ミッション達成に向けて中核になるべき存在だと考えています。 環境のビジネスとしては、プラスチック、金属、建設廃棄物などを、リサイクルしたり再資源化したりするために、細かく砕くための破砕機や、種類ごとに選別する装置、そして、それらの装置を組み合わせたリサイクルプラントなどを展開しています。 道場社長: 選別装置と言えば、昨年は当社も、御社の開発に関わらせていただき、ありがとうございました。
浜口社長: こちらこそ、大変お世話になりました。全く新しい方法で鋼材を分別する装置を、川崎重工の技術開発本部さんと川重テクノさんとで共同開発させていただきました。納入先のお客様からも大変ご好評をいただいております。
道場社長: ここまでのお話を伺い、御社では非常に多岐にわたるビジネスを展開されていることがわかりました。製品ラインナップも非常に多岐にわたると思いますが、どのように製造管理されているのですか?
浜口社長: 長年の工夫の積み重ねで、現在の多品種少量生産を実現することができました。
八千代工場には、機械加工・製缶・組立職場を持ち、破砕機を製造する機械工場と、破砕・粉砕機の耐摩耗品を生産する鋳鋼工場があります。当社の鋳鋼工場のように、素形材を製造できる工場を持っているのは、川重グループでは珍しいようですね。 当社製品のほとんどは受注生産品ですから、設計の出図〜製造工程の管理を含めた、各部門の効率化がお客様のご希望納期を満足するためにも重要な要素となります。そこで、設計の出図管理システムと製造部門の生産管理システムを結合し、すべての工程の見える化を図り、関係者が日程の把握、問題点の把握等が容易にできるようにするとともに業務の抜け・ダブり等をなくすようなシステムを構築しました。これを運用しながら日々の改善を積み重ねているところです。 また、工場開設以来の老朽化した設備も多く、当社設立後、順次最新機器に置き換えて、生産効率と作業環境の改善を図りつつある段階です。さらに、より働きやすい職場環境づくりを進めるべく、事務所棟のリニューアルや、従業員食堂を含む厚生棟の建て替えをしました。 これらにより、当社のスローガンであるHarmony/One Heartの文化のさらなる定着を図っていきたいと思います。 道場社長: 最後に、今後の展望をお聞かせください。
浜口社長: 現在、当社の事業は既存分野を中心に堅調に推移しております。今後は、破砕・粉砕・分級・混合・造粒といった当社の基幹技術をベースとした、新技術・新機種の早期上市・拡販と既存機種の中で販売すべき機種の絞り込みをさらに行い、機種構成を変えていくとともに、繰り返し生産機種を増やしてゆくことが必要です。
一方で、工場の生産コスト低減を図るべく、前述の設計〜生産工程までを見える化したシステムのレベルアップを図りながら、IoTを活用する等、製造技術の追求、効率化を図り、工場のキャパアップ、製造スキルの向上へとつなげていきたいと考えています。これらにより当社の当面の目標である、業容の拡大と利益の最大化に向かってまい進していきたいと考えております。そして、今後も、適宜、川崎重工業の技術開発本部さんや川重テクノさんにも相談をさせていただきながら、新製品の開発、既存製品の改良に取り組み、川崎重工グループのグループミッションの達成に貢献していきたいですね。 道場社長: 本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
浜口社長: こちらこそ、ありがとうございました。
(2019年 正月)
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