早速、私は蛸の調理にとりかかった。しかし、一向に皮が剥けない。なんせ我が家の手入をしていないセラミック包丁では、生の蛸を切ることが出来ないのである。蛸と格闘すること2時間、かろうじて足1本の皮を剥くことが出来たものの、到底刺身に出来るレベルではなかった。
ついには、「私には生の蛸を料理するのは無理だ」と潔く諦め、鍋で蛸を丸ごと茹であげた。一応、私なりの苦渋の決断であったことはここで申し添えておく。さて、蛸懐石を楽しみにしていた夫は帰宅するなり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。それは無理もない。夫の目に飛び込んできたものは、想像していた蛸懐石ではなく、真っ赤に茹で上がった蛸の姿であった。
「せっかく頂いた蛸に何てことをしてくれたんだ!蛸に謝れ!」と夫は私を責めた。「OJY!オマエガ ジッサイ ヤッテミロ!それに、ない袖は振れない!」と私の開き直った態度に、夫が怒って「茹で蛸」になったのは言うまでもない。
今年も明石ダコの季節がやってきた。夏至から数えて11日目を半夏生(はんげしょう)といい、全国でもトップクラスの蛸の水揚げ量を誇る明石市では、その年の豊作を祈願しタコを食べる習慣がある。(ちなみに2018年の半夏生は7月2日)これは作物がタコの足のように、大地にしっかりと根を張ることを祈願するといった意味が込められているそうだ。
明石市の観光名所の一つである「魚の棚商店街」では、生きた蛸が店頭に並び、訪れる人を驚かせている。これは明石漁港が近く、明石ならではの「昼網漁業」でとれたての蛸が入ってくるからだそうだ。
明石ダコは別名「麦わらダコ」と呼ばれており、魚の棚商店街の魚屋さんによると、この時期は麦の収穫時期にあたることと、明石の漁師が沖へ出るときに麦わら帽子をかぶることに由来しているそうである。明石ダコの特長は、足が太く短く弾力性がある。これは明石海峡の激しい潮流に揉まれて育ったためである。また、7〜8月は海水温の上昇と共に蛸の餌であるエビやカニが増え、餌が豊富になるため、蛸は一気に成長し肥えて味が良くなるそうだ。まさに今が旬である。
知り合いの魚屋さんに勧められ、明石ダコを買ってみた。あれから9年、たとえ料理の腕は上がっていなくても、今回は地元明石で知り合いも増え、蛸の食べ方を直に聞くことが出来る。早速、地元明石の人に蛸の料理をヒアリングし、蛸料理に挑戦してみた。ちなみに私はズボラであり、大の料理苦手である。
蛸の下ごしらえ
前回、挫折した蛸の皮剥きである。塩水でさっと蛸を洗い、包丁で切れ目を入れ、布でつかんで剥く。
地元 明石の人に聞きました!
〜料理下手でも出来る蛸料理〜
1.明石ダコのフライ(提供者:明石のとあるお店のマスター)
- ①蛸の足に縦に切り目を入れる。(切り目を入れることにより、揚げた時に蛸が丸まらない)
- ②小麦粉→溶き卵→パン粉の順に衣をつける。
- ③一晩冷凍庫で凍らせる。
- ④凍ったままの蛸を油で揚げる。(凍らせたまま揚げると油が飛び散らない)
ちなみに、この蛸のフライは生の蛸だからこそ美味しいのであって、茹でた蛸で作ると固くなるそうです。
お酒のおつまみにも、ご飯の一品にもいけます。
2.明石ダコのグリーンソース(提供者:イタリア料理店のマスター)
- ①生の蛸を薄くスライスする。
- ②きゅうりをすりおろし、オリーブオイル、塩、コショウを混ぜる。(お好みでアンチョビやニンニクも加えても美味しい)
- ③①の蛸に②で合わせたものをかける。
これはイタリア南部の家庭料理だそう。
蛸のリゾットと一緒に食べてもおいしいです。ワインの最高のお供です。
余った蛸のリゾットはライスコロッケにリメイクも出来るそうです。
3.蛸の柔らか煮(提供者:近所の奥さん)
- ①鍋に日本酒(料理酒)を入れ、アルコールをとばす。
- ②アルコールが飛んだら醤油・だし・みりん・砂糖を鍋に入れる。
- ③圧力鍋…5分 普通の鍋…50〜60分 煮る
【番外編】お米に、柔らか煮で出た煮汁と蛸、水をいれて炊くと美味しい蛸めしが出来ます。
どの料理も思いのほか、簡単に出来た。下ごしらえさえクリアすれば、あとは新鮮な蛸が良い味を出してくれる。これで9年前のあの蛸も夫も納得してくれただろう。