技術分野

強度・応力計測

技術レポート

溶接構造の疲労評価

 近年、世界中で大きな破壊事故が報道されています。特に溶接して組み立てられた機械・構造の破損では金属疲労が原因の大半を占めています。したがって、これらの破損を未然に防ぐことや万一破損が生じても再発を防止することは重要です。
 また、最近は使い始めてから長い年月を経た(経年)機械・構造物も急激に増えています。それらは金属疲労などで破壊・破損することなく、一体いつまで使えるのでしょうか? 事前に検証し、安心して使える状態を確保しておくことが不可欠でしょう。
 ここでは、その一助となる溶接構造物の疲労評価技術を簡単にご紹介します。

1.溶接部の(金属)疲労とは?

 溶接部疲労破壊の未然防止や再発防止を達成するためには、次の要因を把握することが不可欠です。
 溶接部の疲労特性はどんな特徴なのか(母材部とは何が違うのか)、溶接部の疲労破壊はどんな現象なのか、そのようになる原因は何か。

項目 説明 具体例、他
疲労特性
  • 母材に比べて極めて疲労強度が低く、母材の半分程度まで下がっています。
  • 旧・金属材料研究所の疲労試験データシートによると引張強さが500MPa級の鉄鋼材料(SM500B)の場合、200万回疲労強度は母材で約280MPaであるのに対し突合せ溶接継手では約130MPaとなっています。
疲労破壊
  • 溶接線に沿って止端部に疲労き裂が発生します。
  • 溶接線と平行方向の応力よりも直角方向の応力の方が疲労強度は低下します。
疲労破壊 具体例
疲労強度

低下原因
  • 溶接ビード止端部の応力集中
    → 健全な溶接継手でも通常き裂は溶接ビード止端部から発生します。
  • 引張の溶接残留応力
  • 溶接不良(欠陥)
疲労強度の低下原因 具体例

 溶接部の疲労強度を向上させるためには、溶接ビード止端部をグラインダ等で滑らかな形状に仕上げて応力集中を低減する方法、応力除去焼鈍熱処理を施して表面の引張残留応力を低減させる方法などがあります。効果の目安は既存の疲労設計指針などを参照して得ることができますが、対象とする実構造で定量的に把握するには評価部位を模擬した試験体で疲労試験を行って比較検証することが必要です。

(2)疲労強度・寿命の推定

 溶接部の疲労強度評価は疲労限または疲労寿命による判定が必要になります。

項目 説明 補足
疲労強度
  • 疲労限の応力範囲を基準とし、発生する応力範囲と比較します。
  • 発生応力範囲が全て疲労限未満なら疲労強度は問題ありません。
疲労寿命
  • 発生応力範囲の頻度分布を用い、溶接部のS-N線図から疲労損傷度を計算し、寿命を求めます。
  • S-N線図は通常、所定の疲労設計基準を用い、疲労寿命が許容値を超えなければ問題ありません。
疲労設計
基準
  • 溶接継手部の疲労試験データに基づく疲労S-N線図です。
    (評価指標は公称応力範囲)
  • 国内ではJSSC((社)日本鋼構造協会)の疲労設計指針が広く使われています。

(3)実構造の疲労寿命・余寿命評価方法

 溶接構造に対して疲労寿命・余寿命(経年した溶接構造ではあと何年使えるのか)を推定する場合、応力計測による方法と疲労センサによる方法があります。

評価方法 内容 特徴
1)応力計測

従来法

  • ひずみゲージ法で、ある期間応力を連続計測してデータ解析を行い、発生応力レベルと頻度(応力繰返し回数)の分布を求め、線形累積損傷則に基づいて計測期間の疲労損傷度を計算し、寿命(年数)を算出します。
  • 余寿命は算出した寿命から現在までの供用期間を差し引いて求めます。
  • 比較的短期間で計測点数も少なく電源供給が容易な場合に適しています。
2)疲労センサ

当社オリジナルの新しい方法

  • 金属箔製センサを部材に貼付し、センサから発生するき裂長さから疲労損傷度を計測し、寿命を算出します。
  • 余寿命は算出した寿命から現在までの供用期間を差し引いて求めます。
疲労センサ
  • 長期間で計測点数が多い場合に簡単に使えます。
  • 電源が無い場合でも使えます。
  • 電子計測器を使わないので鉄道車両など輸送機器の営業運転でもほとんど支障はありません。

 以上の溶接部疲労破壊の防止、評価技術に関して当社は以下の方法を実施しています。

目的 内容 方法
未然防止
  • 発生する応力の評価
  • FEM解析、応力計測、寿命評価
再発防止
  • 破損原因、負荷形態推定
  • 破面の調査、分析
  • 疲労強度、寿命の検証
  • モデル疲労試験の検討、計画立案
  • 応力頻度分布による疲労損傷度評価
  • 疲労センサ適用による寿命推定