輸送機器での事故は、人命が失われる惨事に直結することが多いために、細心の注意をもって設計、製造がなされています。それでも起きてしまう輸送機器事故の報道において、「疲労破壊」「金属疲労」という用語をお聞きになったことはありませんか。
金属疲労といえば、圧力隔壁が疲労によって破壊した1985年の日航機墜落事故を連想される方も多いのではないでしょうか。機械装置の不具合原因の約70%は疲労が原因となっているという統計もあり、当社の調査案件でも日常的に見られ、決して特異な現象ではありません。しかし、「疲労破壊」は専門的な知識を必要とする分野でもあり、新聞報道がされるたびに実際にはどれだけのことが理解されているかということも考えさせられます。
そこで、疲労破壊の簡単な解説とその観察方法の一例をご紹介するとともに、疲労破壊の防止策の初歩的なポイントを示したいと思います。
1.疲労破壊
金属材料は、その材料が有する引張強さ以上の荷重がかかると破断しますが、引張強さ以下の荷重でも繰り返して負荷されると破断することがあります。
この現象が「疲労」と称され、多くの場合部品の表面で、微細なき裂(専門的には金属の結晶粒にすべり)が起こり、このき裂が次第に大きくなり、破断に至る現象です。
「疲労」と呼ばれますが、金属材料の特性が年月とともに変化して破断に至る現象ではありません。
このような特性の変化(たとえば次第に脆くなる)は「劣化」と呼ばれます。
2.疲労破面の観察方法(ビーチマークとストライエーション)
実機の疲労破壊では、繰り返し荷重の大きさが変化するために、その時点でのき裂前縁の位置が破面上に縞模様として残されます。
この縞模様を「ビーチマーク」(貝殻模様)と呼び、疲労破壊の特徴的な模様として知られています。
しかし、この「ビーチマーク」が疲労破壊以外の状況においても現れることはあまり知られていません。
き裂が徐々に進展した際、破面に残る模様ですから、疲労破壊以外にもき裂が徐々に進展する破壊形態、「応力腐食割れ」などにもこの「ビーチマーク」が現れることがあります。
つまり、「ビーチマーク」とはあくまで、き裂が徐々に進展したことを示すものであっても、疲労破壊の「証拠」では無いのです。
逆に、疲労破壊であっても、繰り返し荷重の大きさが変化しなければ「ビーチマーク」は形成されません。
では、この場合、何をもって疲労破壊と判断するかは、よりミクロ的な破面観察結果と併用して判断する必要があります。
ミクロ的な破面観察の代表的な例が走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)通称「SEM」と呼ばれる機械による高倍率での破面観察です。
この際、破面を数百倍~数万倍に拡大していくと、「ビーチマーク」上や「ビーチマーク」間により細かな縞模様が観察される事があります。
これが「ストライエーション」です。
き裂の進展に伴って、1回の繰返し応力が作用する毎にき裂がわずかに進み、その跡が縞模様となって残ったものであり、「ビーチマーク」とは異なり、繰返し応力が作用したことを示す模様です。
この様な「ストライエーション」は破面上に形成された非常に僅かな凹凸であることから、高倍率で初めて観察できるものです。
3.破面の取り扱いのポイント
不幸にして機械装置に事故が生じ、部品が破断しているのが発見されたときになすべきことは、破断の原因を明らかにして対策を立てて再発を防止することです。
この際に重要なことは、上述のように破面から原因を推定するに際して有益な情報を引き出すことです。
川重テクノロジーでは、破損原因の解明と対策の立案を広範囲にサポ-トできる体制を整えていますが、原因追及の第一歩は、破面の調査です。
その際の破損品(破面)の取り扱いには以下のような注意が必要です。
*破面を痛めない:
破面の色や凹凸は貴重な情報です。破面を確認したら手で触れたりすることなく、できるだけそのままの状況で保存してください。錆びるからといって、塗料などを吹き付けたりすることは厳禁です。錆びる場合は、ドライヤ-などですばやく乾燥させて保管してください。