船づくりから拡がる創業時代
川重テクノロジー 道場社長: 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
本日は、日頃より大変密接に事業を連携させて頂いております、川重マリンエンジニアリング株式会社の鹿野健司代表取締役社長にお話を伺います。鹿野社長は1985年に川重に入社され、これまで船舶事業一筋で歩んで来られました。 御社の創業は1978年と伺いました。図らずも当社の創業年と同じ年の誕生ですから、文字通り「兄弟」のようなシンパシーを感じさせて頂いております。また、当社同様に「川重」を冠に頂いておられるのも共通しておりますね。 川重マリンエンジニアリング 鹿野社長: はい、当社は1978年に川崎重工業の100%出資の関連会社として、船舶艤装設計部門から分離独立して創業しました。自動車運搬船リフタブルカーデッキなどの設計、製造が時代にマッチし、事業を拡大することができました。造船技術を基盤にした構造物の設計製造を当社のコア事業にして、陸上分野にも進出しました。1990年には船舶のみならず、車両、機械分野の構造解析も手掛けるようになりました。
道場社長: 構造解析分野では、当社ともコラボレーションによる高度な問題にも取り組ませて頂いておりますが、30年以上のお付き合いになるのですね。川重マリンさんと言えば、リフタブルカーデッキが代名詞のような印象がありますが、実績はどのようなものでしょうか。
鹿野社長: リフタブルカーデッキは創業以来の主力製品ですので、そのイメージは強いかもしれません。これまで約80セットを納入してきました。同じようにお客様からご好評を頂いているものに、モノレールタイプの舶用ジブクレーンがあります。約20年前からの市場投入ですが、メンテナンスがしやすい点からVLCCやコンテナ船などに100基以上の搭載実績を有します。船のバルカー用ハッチカバーも主力製品の一つです。川重が中国遠洋海運集団(COSCOCS)と大連市で共同運営している中国合弁造船所の大連中遠海運川崎船舶工程(DACKS)にはロンジ取付装置(船舶の外殻板内部に補強のための長尺鋼材を自動溶接で取付ける装置)も納入しました。
道場社長: 船舶用の構造部品が主力製品ということですが、それ以外の陸上分野の製品も多く手掛けられていますね。例の有名な金色のオブジェも・・。
鹿野社長: はい。アサヒビール本社ビル(東京都台東区)隣のオブジェはオリンピックの聖火をイメージしたもので、今年まさしく注目されると思いますが、この“金の炎”の製作に携わらせて頂きました。
(K)かなり(M)マニアな(E)エンジニアリング集団なのが良く分かるオブジェでしょう(笑)。このほかにも、明石海峡大橋の制振装置、札幌ドームの可動式天然芝フィールド、立体駐車場や、可動式大型防潮堤など、幅広く技術とアイデアを生かした製品を手がけております。
航空機分野ではB787の胴体成形型組立ラインを企画段階から製作まで行い、車両分野では川重が製作する新幹線、豪華列車等、国内の電車及び、台湾新幹線、米ニューヨークの地下鉄といった国内外の鉄道の構造・衝突解析も行いました。 道場社長: ニーズの見極めとスピードを両立させたからこそ、お客様からの強い信頼を獲得できたのですね。
もう一つの強み ~関西唯一の大型曳航試験水槽~
道場社長: 川重マリンさんと言えば、何と言っても大型の曳航試験水槽ですね。当社の40周年記念行事の際には、ご無理を言いまして水槽のご紹介と見学を実施して頂きました。その節には大変お世話になり、ありがとうございました。
鹿野社長: はい。川重テクノロジーさんと当社の明石船型研究所とは、30年以上も同じ建屋でお隣さんとして密接にお付き合いさせて頂いておりますね。様々な業務の連携や関連会社間の強みを活かした新規事業への取組みをはじめとして、フィールドでの定期的な懇親会の開催まで幅広い分野で、日頃から家族のように交流をさせて頂いており、大変感謝しています。
40周年記念行事の際には試験水槽を詳しくご覧頂き、お互いにより親近感が湧いたのではないかと喜んでおります。 明石船型研究所は、1971年に川重と日立造船が折半出資して設立され、その後川重100%資本となり2011年に川重マリンに併合されました。商船用の大型試験水槽として明石工場の広大な土地に建設されたのですが地盤が固いこともここに建設した理由の一つです。1995年の阪神大震災でも、水槽は無傷で速やかに稼働再開ができました。 この様な水槽は国内に5箇所しかなく、2013年からは新設計船舶の試験実施が国際規則にて義務化されたので需要が急増し大変忙しい状況です。現在は、川重船舶海洋カンパニーの試験が約7割、残り3割は広く日本全国の造船所からの受託試験を行っています。 道場社長: 一つの企業が保有するには、大変巨大な水槽ですね?
鹿野社長: 水槽の大きさは、長さ200m、幅13m、水深6.5mで、水槽水量は約1万5000トンにもなります。抵抗試験、自航試験、プロペラ特性試験などの水槽試験は、年間約80件に上ります。標準模型船の長さは約7mが標準で、所内で製作しています。ご承知のように、所内の一部は工場になっており、模型船は5軸3次元切削機を使って、精度を高めた製作を行っています。保有しているストックプロペラは約250基にもなりますので、お客さまの多様なニーズにお応えできると自負しております。
道場社長: 一言で言えば、水槽試験のプロフェッショナルというわけですね。
鹿野社長: はい。明石船型研究所は40年以上稼働しておりますが、当所の強みは模型船の品質や高い計測精度だけでなく、長きに渡り保有している大量の試験データの蓄積にもあります。そのような蓄積された大量のデータに基づいて船型を開発しているからこそ、川重船舶海洋カンパニーの建造する商船は、世界トップクラスの推進性能を誇っており、明石船型研究所も少なからず貢献させて頂いていると自負しています。
道場社長: なるほど、船舶海洋カンパニーの船型開発の一翼を担われているのですね。
新たなる時代への挑戦
道場社長: ところで、会社の雰囲気はどうでしょうか。特に若い社員のモチベーションなどについてお聞かせください。
鹿野社長: 若い世代が中心になってバリバリ仕事をこなしています。当社は量産品ではなく、都度お客様のご要望に応じて手がける製品が多いので、毎回新しい挑戦をしながら成長できる風土があります。一人の担当者が企画・開発、営業から設計、製造管理、検査、アフターサービスまで手掛けることもありますので、自然とプロジェクト全体を管理する力が身につく社風があります。一人一人が自主性と製品への愛着を持ちながら、自分のやりたいことを粘り強く実現してくれていると感じています。
道場社長: なるほど、明るく元気な社風が理解できます。そんな若い世代を中心に、さらに将来に向けた挑戦が始まっていますね。
鹿野社長: 船舶や舶用機器の設計・製作から始まった会社ですが、今や舶用以外の製品が売上の半分を占めてきました。舶用の分野で蓄積した経験と知識を、大型製品の設計・製造や解析業務に活かし、陸海空に事業を拡大してきました。
特に、解析分野では川重テクノロジーさん特有の優れた解析技術と、当社の上記製品での解析経験を用い、お互いの長所を活かし車両の新規開発案件等にも取組んできました。 これからも、より一層協力を深めながら、新しい設備案件、分野へも事業を広げていきたいと思っています。また、今までのノウハウを活かしながら、さらなる付加価値を提供できる会社を目指していきます。 道場社長: これからも、船舶海洋で培ったエンジニアリング力をコアに、輝ける未来を目指して、益々社会に貢献されることを楽しみにしています。
本日は、どうもありがとうございました。 鹿野社長: こちらこそ、どうもありがとうございました。
(2020年 正月)
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