川崎重工業(株)では、自社開発した大容量ニッケル水素電池(ギガセル®)を電力貯蔵装置とする、太陽光・風力・水力といった自然エネルギー利用した分散電源や、マイクログリッドシステムの実用化に取り組んでまいりました。
当社は、これら電力貯蔵・調整システムの中核コンポーネントである連系インバータについて、川崎重工業(株) 技術開発本部、プラント・環境カンパニーの協力を得て、従来の連系インバータが持つ様々な問題を解消できる画期的な制御方式を新規開発し、この度この新方式を適用した”太陽光発電パワーコンディショナー”を川崎重工業(株) プラント・環境カンパニーに納入するに至りました。
ここでは、この新方式パワーコンディショナーをご紹介します。
1.新方式パワーコンディショナーの特徴
分散電源システムの一例として、図1に、太陽光発電システムを示します。
パワーコンディショナー(以降、パワコンと略す)は、系統状態を監視し、電力指令の生成や系統保護を行う”運転制御部”と実際に電力の充放電制御を行う”連系インバータ部”に大別することができます。すなわち、系統電圧・周波数に対する制御(電流位相の制御も含む)も連系インバータにて行っており、連系インバータの性能・機能が、分散電源システムの性能や運用を決定づけると言っても過言ではありません。
代表的なパワコンの運転方式としては、図1に示すように、商用系統など接続された”連系運転”と非常用発電に代表される”自立運転”があります。
ところで、従来方式パワコンは、表1に示すとおり、種々の長短所を持っていますが、例えば、非常用電源用途や船舶、離島での電力系統のような、発電機や異種パワコンを電力ソースとする系統に対応する場合、それら電力ソースとの連系運転(並列運転)が不安定になるという問題があります。
最近では、この問題について各方面で種々の対策が検討されており、一部問題回避に成功した事例もありますが、分散電源システムの設備構成や運用を制約する原因となっています。
これは、従来方式のパワコン(連系インバータ)では、発電機のように有効横流(同期化電流)に応じ自己の発電状態を変化させる冗長性が制御系として実現できず、系統状態にあわせ、”馴れ合って”動くことができないためです。
そこで当社では、”発電機のように動作する連系インバータ”の実現を目指し、連系インバータに仮想的な発電機モデルを組み込んだ新しい電力制御方式(以降、仮想発電機モデル型制御と称す)を開発し、上記問題を解消することに成功しました(表1参照)。
従来方式パワコン | 新方式パワコン | ||
---|---|---|---|
連系インバータ制御 | 電流制御型 | 電圧制御型 | 仮想発電機モデル型 |
連系運転 (商用系統との連系) |
○ 但し、不平衡負荷等による相アンバランスは系統側で負担。 |
× 横流により制御不安定化。 |
◎ 力率制御も可能。 |
連系運転 (発電機等との連系) |
△ 不平衡負荷等による相アンバランスで制御発散する可能性あり。 |
△ 負荷分担(電力分担)について系統特性の変化の度に調整必要。 |
◎ 発電機として振舞うため、特に問題なし。 |
自立運転 |
× 位相基準(AC電圧)を失うため運転不能。 |
○ 特に問題なし。 |
◎ 解列時、シームレスに自立運転へ移行可能。 |
設備拡張性 (パワコン容量UP) |
△ 大容量設備は特注。 |
△ 大容量設備は特注。 |
○ 連系インバータの増設(並列接続 注)1)で対応可能。 |
注)1 装置の接続状態が並列であることを示し、電力用語の並列(系統接続)ではありません。
2.新制御方式パワーコンディショナー
図2に、当社が納入した太陽光発電パワーコンディショナーの全景を示します。
納入機は、定格10kW の連系インバータ 2台を系統側(AC側)で並列接続しており、20kWパワコンとして運転されます。それぞれの連系インバータには、図1に示したように電池と太陽光パネルがDC接続され、各々の連系インバータがパワコン内運転制御部の指令に従い、充電動作・放電動作を独立して行えるようになっています。注)2
2台の連系インバータには、仮想発電機モデル型制御が実装されており、2台の連系インバータ間にマスター/スレーブの関係はありません。つまり、自立運転時には、あたかも2台の同じ特性を持った発電機が存在するかのように動作します。
太陽光発電側については、MPPT(最大電力点追従)機能を持たせており、日照条件に合わせ好適なエネルギを取り出せるようにしています。
なお、納入機は、連系充放電・自立放電の他、解列充電(太陽光発電で電池を充電する)など、様々な運転モードに対応しています。
注)2 複数の連系インバータを共通のDC主回路に接続しても問題ありません。
以下に、新方式パワコンの最も特徴的な挙動を示します。
図3は、Time=0で解列し(系統から切り離し)、自立運転へ遷移した様子を示すものです。
Time=0までは系統側で負荷を負担しており、自立運転へ推移した後は2台の連系インバータで負荷を応分負担するため、発電機のように周波数、電圧がドループ(速度調停率)範囲内で低下している様子がわかります。
すなわち、2台の連系インバータは、まさに発電機としての動作をしており、各インバータ間で特殊なマスタ/スレーブ制御などを行うことなく、”馴れ合って”動いています。
3.最後に
以上のように、ご紹介した新方式パワコンは、従来方式パワコンの欠点を解消し、
- 発電機との並列運転など、分散電源構成上の制約が軽減される。
- ラインナップ化した連系インバータの並列実装で各種容量に対応できるため、連系インバータの量産効果(数量効果)による価格低減が可能となる。
といった利点を有するものであり、今後とも鋭意開発を進めていく予定です。
当社は、これまでにも、制御システム製品や電子回路基板、ならびに、パワエレ製品の開発設計・製造などで、皆様のお役に立てるよう尽力してまいりましたが、今後とも、種々のハードウェア製品の開発などでお声掛けいただければ幸いです。