センサの原理
疲労センサとは何ですか?
構造物の疲労き裂の発生を予測するためのセンサです。このき裂発生は、繰返し応力の大きさと回数で決まります。センサ・スリット先端からのき裂進展量が、応力の繰返し結果として目に見えます。計測したき裂進展量から疲労ダメージ(損傷度)がわかり、寿命への換算ができます。
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原理を教えて下さい。
応力の繰返しを受けるとき、疲労き裂が安定して進む金属材料の特性を利用しています。
センサは金属箔2枚の層状構造で、き裂が進展するセンサ箔には初期張力を導入しており、このセンサを計測したい場所に貼り付けます。
疲労センサには、当該部の“応力範囲と頻度(繰返し数)の積算されたもの”が“センサのき裂長さ”として現れます。現在、最も感度の良いタイプでは、鋼材に貼付した場合、応力範囲25MPa以上でセンサのき裂が進展します。
一定期間後に計測したき裂長さの進展量から、構造物の疲労ダメージを確認して余寿命を予測します。
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センサの製作・品質
センサの材質は何ですか?
ベース箔はインバー鋼、センサ箔はニッケルにて構成されています。
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センサの製作方法を教えて下さい。
センサ箔はフォトエレクトロフォーミングという写真製版技術を応用して製作しており、微細な初期き裂等を設けてあります。このニッケルのセンサ箔をインバー鋼のベース箔に接合しています。
この接合方法には微小抵抗溶接を用いており、センサ箔に引張残留応力を導入するため、常温よりも高い温度状態で接合しています。
疲労センサの製作はどこが行うのですか?
センサ箔とベース箔を購入後、弊社で接合して完成させています。
センサの品質を維持するためにどのようにされていますか?
精密電子機器製造と類似の製法を採用することで、ばらつきの小さい安定した品質を確保しています。
また、ロット毎に性能試験を行い、センサの検定・品質管理を行っています。
センサタイプごとの性能のばらつきはどの程度でしょうか?
金属材料の安定した疲労き裂進展特性を利用しているものの、どうしてもある程度のバラツキは存在しますが、その大きさは溶接継手の疲労寿命のバラツキに比べると小さく、寿命予測に与える影響は小さなもので、実用上の問題はありません。
また、ロット毎に、疲労き裂進展特性が管理値の範囲内にあることを確認する試験を行っていますので、品質上のバラツキは最小限に抑えられています。
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センサの部材ひずみ追従性はどうでしょうか?
ひずみ追従性については実験室で問題ないことを確認しています。また実構造に対してもひずみゲージ法による余寿命診断結果との比較から問題ないことを確認しています。
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センサの耐環境性能はどの程度でしょうか?
センサ自体の耐久性は問題ありません。
むしろ、センサが部材に貼付されるときに用いられる接着剤の寿命は、一般的に6ヶ月とされていますので、これが目安になります。
もし、6ヶ月以上の貼付期間を要求される場合には、マイクロスポット溶接を用いる方法があります。適切に保護すれば、2〜3年の使用も可能です。
センサの使い方
溶接部に対して使えるそうですが、それは何故ですか?回転機械のシャフトにも使えますか?コンクリート構造物はどうですか?
溶接部では疲労S−N線図の傾きが疲労センサと等しく、応力範囲のレベルに関係なく両者の寿命比率が一定になるからです。詳しくは「センサによる寿命診断」をご参照ください。
回転機械のシャフトでは、評価部位が溶接部であれば使えます。
コンクリートの場合、疲労と言っても金属の疲労とは破壊プロセス・形態が異なるために使えません。
どこに貼付するのですか?
金属疲労が問題となる溶接構造物において、応力が集中して繰返し応力が高く、経験的に重要と考えられる部位などを抽出し、その溶接部近傍における部材の表面に貼付します。
溶接のビード上に貼付してはいけません。
溶接部近傍のどこに貼付すればよいのですか?貼付する方向はどうですか?
溶接ビード止端部から板厚の0.3倍離れた点(ホットスポット応力の代表位置)に貼付すれば、その溶接部に対して最も正確な疲労寿命予測が行えます(0.3t法)。ただし、板厚が薄くて0.3tの距離を確保できない場合には、公称応力と見なせる部位に貼付します。
次に、貼付する方向は実構造で予測される疲労き裂の進展方向と疲労センサ・スリットの方向が一致するようにします。すなわち、通常のすみ肉溶接部の場合、疲労センサ・スリットの方向を溶接ビードの方向と平行にします(溶接ビードに対して疲労センサの長手方向が直交向き)。
なお、このような考え方は従来から広く行われているひずみゲージを用いた応力計測でも同様です。
応力集中部にセンサをピンポイントで貼り付けるのでしょうか?
重要箇所ではセンサ1枚ではなく数枚をセットにして貼付することをお勧めします。
どうやって貼付しますか?貼付するとき何か注意することはありますか?
ひずみゲージ用の瞬間接着剤を用いて貼付します。
ただし、ひずみゲージとは異なり、疲労センサは金属箔の2層構造が保たれないと機能を発揮できません。よって、貼付するときは、この層間に接着剤が入り込まないように注意する必要があります。
(ご参照)疲労センサの貼付・保護・点検マニュアル(PDF:4.0MB)
貼付時に加熱などの処理は必要ですか?
いいえ、必要ありません。
センサ部分のプリテンション(引張の残留応力)は、すでに製作過程で加えられています。現場で貼付する際に加熱する等の面倒な処置は必要ありません。ひずみゲージと同様、接着剤で貼付するだけです。
センサのき裂進展量はどのように計測しますか?
薄い樹脂性のフィルム(例えばアセチルセルロース製)にセンサのき裂を転写し(レプリカといいます)、これを拡大鏡や顕微鏡で観察するのが一般的な方法です。こうすることにより、記録が残り、後ほど観察したものとの比較検討も可能になります。
疲労センサを適用する際(貼付、点検、診断)に発生しやすいトラブルはありますか?それはどんなものですか?
可能性としては、点検した際にセンサき裂が進展して破断していることが考えられます。これを避けるためには、初回点検までの期間を短くして様子を見ることが必要です。
貼付期間中の温度変化に対して、構造物にも熱応力の変動が発生しますが、疲労センサへの影響はどの ようになりますか?
適用対象が鋼構造物の場合、温度が上昇して部材が熱膨張で変形したとしても、疲労センサと部材とは線膨張係数が大きく変わらず、両者は同様の熱変形をするだけで、ほとんど影響は受けないと考えられます。
使用温度、海水環境などの適用可能な条件を教えて下さい。
基本的にはひずみゲージが適用できる場所ならば何処でも適用ができると考えてください。センサ表面の防護処理も行う場合があります。
現在の疲労センサは−30℃(ただし氷結しないこと)から60℃以下の常温・大気環境下の適用を想定しています。また、海水のような水中・腐食環境でも疲労センサを適切に保護すれば使用可能となります。
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センサによる寿命診断
センサによる余寿命診断方法について教えて下さい。
例えば、日本鋼構造協会(JSSC)の「鋼構造物の疲労設計指針」によると、鋼構造物(主に溶接継手)は継手形状により強度等級に分類され、その等級により疲労設計曲線(S-N線図)が用意されています。
これらのS-N線図とセンサのS-N線図は両対数表示で曲線の傾きが等しいことから、両者の疲労寿命比率のみで寿命が予測できます。したがって、疲労センサは応力範囲と頻度等の間接パラメータを用いることなく、直接、余寿命を診断することができます。
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従来のひずみゲージを用いた疲労ダメージ(損傷度)の予測、寿命診断はどのような方法ですか? また、この方法による診断は、川重テクノロジー(株)で行っているのでしょうか?
応力の頻度を計測し、そのデータを分析することにより、同様の診断が可能です。弊社はひずみゲージを用いた応力計測も行っています。
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疲労寿命の診断には、従来から応力頻度の計測結果とS-N線図を用いて行う方法(ひずみゲージ法)もありますが、疲労センサによる方法のメリットは何でしょうか?
従来法では、ひずみゲージによる応力計測結果を基に乱数的に発生する応力を頻度分布として分解し、累積損傷則により疲労寿命予測を行っています。この方法ではデータが膨大となるため、通常、計測期間は短くせざるを得ず、また、高額な計測器も必要です。
一方、疲労センサでは、応力頻度を直接き裂進展量として取り扱うために間接的なデータが不要です。また現場での計測装置や電源が不要なので適用領域の拡大や長期間の計測にも安価で対応できます。
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余寿命診断にはどのくらいの期間が必要になりますか?
診断する対象にもよりますが、想定する寿命の1/20〜1/100の期間が必要となります。例えば、50年程度の寿命を期待する場合であれば、およそ半年間センサを貼付しておきます。
計測期間中は、貼っておくだけで結構です。
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疲労センサで、例えば、余寿命が10年と診断された場合、10年間は定期点検、メンテナンス等は必要な いのでしょうか?
いいえ。疲労センサの診断結果は、余寿命を保証するものではありません。診断結果に基づき、お客様で詳細調査や補強等の必要性を検討し、対応を決定いただくことが基本です。
適用事例、その他
適用実績を教えてください。
現在まで、鉄道車両、鉄道施設、船舶、橋梁、クレーン等に実績があります。
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適用できる対象物を教えて下さい。
工業用金属製の構造物に適用できます。例えばアルミ合金もOKです。
センサだけ入手して、貼付・点検・寿命診断はユーザが行う、ということもできるのでしょうか?
疲労センサの貼付作業や点検作業は、お客様で実施することが可能です。その際は、弊社が提供する実技講習のご利用をお奨めしております。
次に、寿命診断ですが、これには疲労センサの特性に関するデータベースとノウハウが必要になりますので、弊社が行います。
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川崎重工ではいつから疲労センサの開発に着手したのですか?またいつ開発が終わったのですか?
1980年代に創造したアイデアを基に1998年ごろから本格的な開発に着手して、2000年には実用化を達成しました。その後、川崎重工グループの製品を対象として実機適用を継続し、実績を積んできています。