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1. はじめに

 一般に、製品の信頼性(製品が正常に機能し、その状態を長期間維持できること)を損なう要因となる環境ストレスとしては、温度、湿度、気圧、振動(衝撃)、塵埃、紫外線などが挙げられます。
 可動部を有する産業機器やそれらに搭載される電子機器にとっては、振動(衝撃)による故障や損傷が支配的であり、そこに温度や湿度の影響が重畳することによって、より厳しい環境ストレスが加わります。これまでは試験装置の都合上、振動のみを与える試験によって信頼性を評価してきましたが、複雑に絡み合った環境ストレスを再現出来ていませんでした。そこで、温度と湿度の影響も同時に与えることができる複合環境振動試験装置を導入し、温湿度環境下での振動試験を可能にしましたので、ご紹介いたします。

2. 複合環境振動試験とは

 振動によって、製品には物理的な破壊(共振による破壊、疲労破壊)や摩耗などが発生することがあります。また、温度変化は、ヤング率や内部摩擦などの物性変化、熱伸びによる寸法変化、脆化などを引き起こし、湿度は、腐食などの原因となります。本試験装置は、振動、衝撃などの動的な環境ストレスに加え、温度や湿度などの静的な環境ストレスを複合した試験をすることができます(図1参照)。
 従来、単独で行われてきた環境試験が、「温度」「湿度」「振動(衝撃)」の3つの試験条件を同時に制御できるため、実際の環境に近い試験となり、単独の環境試験をそれぞれ行うのに比べて大幅な時間短縮が可能になります。

図1 製品に対する複合環境の影響
図1 製品に対する複合環境の影響

 また、最近では自動車や航空宇宙産業などにおいて、電動化にともなって温度・湿度の影響を受けやすい半導体などの電子デバイスや樹脂系の複合材が多用されているため、多様な温度・湿度環境下における振動試験が機器の信頼性確認に不可欠となり、規格化もされてきています。具体的な試験対象は、エンジン制御用センサ(温度センサ、ポジションセンサなど)、小型モータ、電池、衛星部品、各種制御装置などがあります。

3. 装置仕様

 図2に複合環境振動試験装置の写真を示します。本装置で実施可能な振動試験の規格、仕様・寸法等は下記に示しますHPをご参照ください。

 「複合環境振動試験装置のご紹介」
https://www.kawaju.co.jp/rd/vibration-noise/report/vibration-testing-device.html

4. 適用事例

 本試験装置を用いて温度変化を伴う振動試験を実施した事例を2つご紹介します。

4.1. 事例1 路上走行車−電気・電子機器の環境条件及び試験
  (ISO 16750-3 規格試験)

 ISO 16750-3は、自動車に用いられる電気・電子機器の複合環境振動試験についての国際規格で、温度変化と振動を同時に加えて電子機器の信頼性を確認する試験を規定するものです。
 ご紹介する事例は、この規格に準じて、乗用車のエンジンに取り付けられる電子機器の信頼性を確認した試験です。
 図3のように振動試験装置の加振テーブルに治具を介して試験体を取り付け、図4に示す温度環境下にて、正弦波振動1)(図5参照)、およびランダム振動2)(図6参照)で加振しました。なお、前後、左右、上下方向に加振することが規定されているため、試験体の向きを変えるのに組み替えしやすい治具としました。試験後、動作確認や目視による外観検査を実施し、異状がないことを確認しました。
 これまで当社では、温度変化を考慮しない振動試験を主として行ってきましたが、複合環境振動試験装置を導入することで、事例に示すような温度変化も同時に与える試験が可能となり、ISO 16750-3規格試験に対応出来るようになりました。

1)正弦波振動 一定の周期で繰り返す振動
    例)エンジンのピストンの往復運動から発生する振動 など 正弦波振動
       
2)ランダム振動 周期性がなく、振幅や周波数などが予測できない不規則な波形の振動
    例)自動車が走っているときに路面から伝わる振動 など ランダム振動
図4 温度条件
図4 温度条件
図5 正弦波振動加振条件
図5 正弦波振動加振条件
図6 ランダム波振動加振条件
図6 ランダム波振動加振条件
4.2. 事例2 防振ゴムの振動伝達率計測

 一般に、工業製品で用いられている防振ゴムは、0℃以下の低温となった場合、ばね定数が高くなり、振動伝達率(基礎の振動と試験体の振動との比)が大きくなります(振動が伝わりやすくなる)。ここでの事例は、低温の影響が小さいシリコンゴム製防振ゴムを用いて振動試験を行い、低温でも防振効果が低下しないことを定量的に評価したものです(図7参照)。
 左図が試験概略図、右図が振動伝達率のグラフで縦軸が振動伝達率の大きさを、横軸が周波数を表しております。
 防振ゴムを介して試験体を試験装置に取り付けて加振し、入力した加速度と試験体の応答加速度を計測して振動伝達率を求めます。図7(2)の赤枠で囲った35〜200Hzのところが防振ゴムとして使われる範囲で、環境温度-20℃と20℃を比較すると、低温になると振動伝達率が15%程度大きくなる(振動が伝わりやすくなる)ことが確認されました。これは、一般的な防振ゴムと比べて、防振効果としては、大きな変化ではないことが確認されました。

(1)概略図 (2)振動伝達率
図7 防振ゴムの振動伝達率計測
5. おわりに

 複合環境振動試験装置を導入し、温湿度環境下での振動試験が可能になりましたのでご紹介させていただきました。
 ここに記載している事例以外にも、当社では多数の試験実績があります。また、様々な機械製品の振動/騒音問題を解決するための計測実績があり、そのノウハウを生かした実現象の再現試験や加速試験なども行っております。
 お客様の目的に応じた試験方法の検討とご提案、試験結果に対する評価など様々なご要望にお応えいたしますので、下記までお気軽にお問合せ下さい。

(2021/8)
ソリューション事業部
製品評価ソリューション部
振動技術課 川見 健太郎
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