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1. はじめに

 鉄道車両のような輸送機器が走行中に作用する繰り返し荷重で壊れることを防ぐために、製品の骨格となる部分には、想定する荷重が加わっても簡単には壊れない強度が求められます。そのために事前の強度検討が必要です。
 また、荷重は複数の方向から作用しますが、これに対して十分な強度を有するかを実機の運用前に確認することが必要であり、そのために強度試験が行われます。
 これまで当社が保有する試験装置では、1方向の荷重しか負荷できませんでした。そのため多方向の荷重に対する強度評価では、多方向の荷重の影響を大きめに加味した、安全側の評価となっていました。一方、今回導入した多軸強度評価システムでは、実際に作用する多方向(多軸)の荷重を再現することができ、正確な強度評価ができるようになりました。以降、本システムの概要と試験事例を紹介します。

2. 多軸強度評価システムの概要(3方向の試験イメージ)

 走行時に3方向の変動荷重を受ける鉄道車両の足回り部品の強度評価のイメージを挙げ、最大3方向からの荷重を同時に制御できる本システムの概要を紹介します。
 鉄道車両は、図1に示すように、車体が足回り部品を介して台車と接続された構造になっています。足回り部品は乗客の快適性向上を図るためのものであり、台車から車体に伝わる上下、左右の振動を抑えるダンパと、軌道からの衝撃を抑える空気バネで構成されています。ここでは、垂直、水平のダンパや空気バネから、3方向の変動荷重を受ける結合プレートが評価対象(試験体)となります。
 図2に試験のイメージを示します。本試験では結合プレートと空気バネを上下反転して設置し、ダンパと空気バネの力を、3台の負荷装置(油圧シリンダ)に置き換えています。また、図2の右側には各負荷装置の荷重の時系列波形を示します。このように、3台の負荷装置を同時に制御することで、実際の走行時と同等の荷重を試験体に与えることが出来ます。

鉄道車両部品の負荷イメージ
(a)構造
(b)負荷イメージ
図1 鉄道車両部品の負荷イメージ
 
 
試験イメージ
図2 試験イメージ
3. タービンブレードの2軸疲労試験と設計支援

 従来の1方向の負荷(1軸試験)で多方向の荷重に対する強度評価を行う場合、1軸試験で取得した試験結果をもとに、多方向の力の影響を十分に加味した、安全側の検討を行う必要があります。一方、多方向の負荷(多軸試験)の場合、実際の力を再現しているため、取得した試験結果を補正することなく、設計に活かすことができます。タービンブレードの2軸疲労試験と設計支援の事例を紹介します。
 タービンとは、水、蒸気、ガスなどの流体から力を受けることによって、ホイールやロータを回転させ、発電などを行う機械です。例えば、図3(a)に示すように、蒸気タービンの構成品であるタービンブレード(以降ブレード)は、ロータの回転時に遠心力による引張荷重と、蒸気圧による曲げ荷重が同時に作用します。このとき、定常運転時には遠心力はほぼ一定ですが、蒸気圧は変動します。この遠心力と蒸気圧により、ブレードの根元が疲労破壊を起こすおそれがあります。そこで、ブレードの設計では、疲労破壊を起こさない限界の荷重(耐久限度)を把握することが重要となります。
 図3(b)に試験状況を示します。図中の試験体や試験治具は、実際のブレードやロータと同じ材料を使っており試験体の付け根の部分が評価部位になります。

(a)タービンの運転イメージ
(a)タービンの運転イメージ
 
(b)試験状況
(b)試験状況
図3 ブレードの2軸疲労試験

 図4に試験結果として、曲げ荷重とブレードの疲労寿命の関係を表すS−N線図を示します。荷重が大きいほど早く壊れ、小さいほど長持ちすることを示しています。また、荷重が特定の値まで小さくなると、疲労破壊せず、その時の荷重が耐久限度となります。図中の▲は1軸試験、は2軸試験の結果を示し、黒線と赤線が試験結果から算出した近似線を示します。また、破線は、1軸試験の結果に2軸負荷の影響を加味して補正した推定耐久限度を示しています。なお、推定耐久限度は、2軸試験での耐久限度が不明な状態で評価する必要があるため、十分に安全を考慮して、低く見積らざるを得ません。このため、推定耐久限度を用いた設計は、過度に余裕を持たせたものとなります。
 このように多軸強度評価システムでは、従来の1方向負荷より正確な強度評価を行うことで、設計支援を行うことができます。

S-N線図
図4 S-N線図
4. おわりに

 多軸強度評価システムでは、今回紹介したタービンのブレードのような引張と変動曲げ荷重だけでなく、最大3方向の変動荷重を制御することも可能で、自動車や鉄道車両の部品の評価にも適用できます。
 当社では、試験の計画から実施および強度評価までお手伝いいたしますので、お気軽にご相談ください。

(2021/1)
ソリューション事業部
製品評価ソリューション部
強度技術課 山ア 亮
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