1. はじめに
当社では近年、設計最適化解析を用いた構造解析業務が増えつつあります。設計最適化解析は特に製品の開発初期段階において非常に有益な手法であり、今回汎用有限要素法プログラムMSC/MD Nastran(以降Nastranと称する)を用いた鉄道車両構体の設計最適化解析技術の事例をご紹介します。
2. 最適設計の手順
製品の設計過程の一般的な流れを図1に示します。図面による設計過程と強度確認の解析過程を繰り返し実施することで、最適な構造を決定します。
3. 設計最適化解析とは
設計最適化問題には一般的に以下の三つの情報が必要になります。
●目的関数…最適の判定基準(例:質量最小化、固有振動数最大化、等)
●制約条件…満足すべき設計条件(例:許容応力、許容変位、固有振動数、等)
●設計変数…変化させる設計パラメータ(例:寸法、形状、等)
最適化問題とは、「与えられた制約条件を満足し、目的関数を最小(最大)にするような設計変数の決定」と定義されます。Nastranの設計最適化解析では、様々な制約条件を満足する最適な設計が、自動的に計算されます。従来は手作業により試行錯誤して行っていた計算も、繰り返し計算を自動化することにより解析作業の効率化が格段に図れます。
Nastranでは線形静解析、固有振動解析、周波数応答解析、近年では非線形解析など、幅広い解析種類での最適化計算の実行が可能になっています。また、板厚最適化、形状最適化、および位相(部材配置)最適化などの広範囲な最適化機能を有しています。
設計最適化解析の特徴 | |
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FEM解析種類 | ・線形静解析 ・線形座屈解析 ・固有振動解析 ・周波数応答解析 |
最適化解析機能 | ・板厚最適化 ・形状最適化 ・位相(部材配置)最適化 |
4. 鉄道車両の設計最適化解析事例
鉄道車両構体の板厚最適化解析の実例を紹介します。今回は例としての紹介であり実車とは関係がありません。解析種類は線形静解析を使用します。FEMモデルは板要素でモデル化されており(図2参照)、外板を除く全ての部材の板厚を設計変数とします。設計変数に離散値を設定することで、実際に手配できる材料の板厚を考慮しながら解析が実行できます。許容応力が異なる材料や溶接部にそれぞれ異なる制約条件を設定することができます。今回は現状構体重量から10%の重量減少を目標にします。なお、初期構造では許容応力を満足していない結果となっています。
<最適化解析条件>
- ●解析対象
- 鉄道車両構体
- ●要素タイプ
- 板要素(約40万要素)
- ●解析種類
- 線形静解析
- ●最適化機能
- 板厚最適化解析
- ●荷重ケース
- 4ケース
- ●目的関数
- 重量最小化
- ●制約条件
- 許容応力、変形量
- ●設計変数
- 板厚(約100部材)
上記の最適化解析条件で計算を実施したところ、大規模な鉄道車両全体モデルでも数時間程度の比較的短時間で計算を実行することができました。
今回の解析では多くの部材で板厚(重量)が減少した結果が得られ、目標を達成する約10.3%の重量減に成功しました(図3参照)。もちろん、最大発生応力、変形量とも制約条件を満たす結果となっています(最適化解析前後の応力図は図4参照)。更に、全体重量は減少したにもかかわらず、最大発生応力や変形量は減少しており、構造性能もアップしています(図5参照)。このように、最適化解析を実施することにより、容易でスムーズに現状より最適解に導いてくれます。
5. おわりに
Nastranの設計最適化解析を用いれば、従来では何回も手作業で設計や解析を繰り返し行っていたことも自動的に効率的に行うことができ、製品開発のコスト削減に大いに貢献すると思われます。どのような製品でも軽く、丈夫で、低コストでの開発が望まれると思います。この手助けの一つとして挙げられるのが設計最適化解析だと思います。
当社では今回事例紹介した板厚最適化だけでなく、形状最適化、位相(部材配置)最適化など、多種に渡り解析可能な環境を整えております。